白樺王子の愛するブログ

ほんとうのしあわせのために

【プライベート】始まりと終わりの物語~第1話~

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2020年1月2日に僕たちは別れた

出会ってから最初の年末年始、僕たちは初めての大型連休をずっと一緒に過ごす計画を立てた。12月28日はあっちゃんの誕生日、僕たちは日本一星空が美しいとされている長野県の阿智村の温泉旅館に宿泊して、お誕生日のお祝いをすることにした。

前日に僕の家に泊まって、次の日ゆっくり現地に向かうことになっていた。しかしあっちゃんはその前の週からずっと体調が悪いと言っていて、正直なところ、僕はあまりいい気持ちはしていなかった。

というのも、いつも何かにつけてイベントの前に具合が悪くなったと連絡してくるのだ。ここまでタイミングがいいと、本当は自分に会うのが嫌なんじゃないか?と思ってしまう。でも、会えばとても素敵な時間を過ごせるし、また会いたくなる。なので嫌だと思っているわけではないんだろうなと、自分に言い聞かせていた。

前日になり、僕の家にあっちゃんが来た。ドタキャンにならずにほっとしていた。そして、ワクワクしながら次の日を迎えた。次の日はとてもいい天気だった。そして二人ともとてもいい気分だった。ゆっくり朝食をとり、昼前に現地に向かって出発した。

道中もとてもワクワクしていた。途中、サービスエリアでご当地物のデザートなどを堪能しながら夕刻前に旅館にチェックインした。旅館にはとても立派な露天風呂があり、貸し切りではなかったが、ゆっくりと温泉を楽しんだ。そして、初めてみるあっちゃんの浴衣姿に僕は心が躍った。想像はしていたが、やっぱり本当に綺麗だった。出会った瞬間、浴衣姿が見たい衝動にかられたことを思い出してしまった。あの時の願望が今実現したと思った。

食事は個室でゆっくりと、適量の懐石料理をいただいた。地のもの、旬のものを二人で堪能した。目の前にいる美女が本当に自分の彼女なんだろうか?と思ってしまうほど、夢のような時間を過ごした。

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食事を終えて、僕は予め行こうと思っていた星の見える公園にあっちゃんを誘った。あっちゃんは具合が悪いけどせっかくだからと一緒に行くと言ってくれた。12月の阿智村はとても寒く、僕たちはスキーウェアを着て車に乗り込んだ。僕は予め決めていた公園を目指して車を走らせたが、グーグルマップが示す通りに行っても公園にたどり着けなかった。道が間違っているのか、はたまた閉鎖されているのか、とにかく道なき道を進めと言ってくるグーグルマップを信頼できず、僕は公園に行くのをあきらめた。

しかし、夕食時に配膳の係をしてくれた中居さんが、お勧めの公園を教えてくれてて、そちらに行くよう方針を変え、また車を走らせた。20分くらい走らせると、目的地の公園についた。この公園は星空ガイドのサービスがあるらしく、大盛況だった。

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僕としては、できれば二人だけの世界を創りたかったが、いかしかたなかった。それでも、寒さをこらえながら夜空を見上げると満点の星空が僕たちを包み込んだ。あっちゃんはとても喜んでいた。そして僕はポケットに潜ませておいたあっちゃんの誕生日プレゼントを手渡した。

このプレゼントは、あっちゃんが僕と初めて会った時にしていた星のイアリングをみてかわいいと思っていたこと、そしてそのイアリングは片耳なくしてしまっていたこと、その情報を基に1カ月前からオーダーメイドで頼んでいた三日月形のピアスだった。

あっちゃんと僕は月に導かれて出会った。満月の夜は毎回一緒に過ごした。新月の日は一緒にお願い事を考えた。そういった時間を過ごしたことで、僕がこのピアスをプレゼントするに至った理由だった。

僕は星のイヤリングがてっきりピアスだと思い込んでいて、オーダーメイドをイアリングでなくピアスにしてしまったことで、すぐにその場でつけてあげることができなかった。でも、あっちゃんはとても喜んでくれた。

「運命を変えてしまうかもしれない」

あっちゃんはこういった。僕にはどういう意味か分からなかったけれど、いい答えなのだろうな、と捉えることにした。

旅館に戻り、僕たちはお酒を飲んで、いい気分になった。そして思い切り抱きしめあった。僕はお酒が弱く、いつもあっちゃんより先に潰れてしまうので、あっちゃんはそんな僕を膝で寝かしつけることが好きだと言っていた。

この日も、いつものように僕は潰れてあっちゃんの膝で寝息を立てていた。そして、はっと目覚めたとき、あっちゃんはとても機嫌が悪そうだった。あっちゃんは僕にこんな質問をした。

「だいすけくんは自分の居場所ってある?」

正直、なんて答えていいかわからなかった。居場所?なんて考えたこともなかった。僕はいつもあっちゃんの質問に満額回答出来ないことに危機感のようなものを感じていた。つまらない男と思われるのを恐れていたからだ。

僕はなんて答えたのか覚えていないくらい、しどろもどろな答えをあっちゃんにした。その後の話はいい展開にはならなかった。僕は自分があっちゃんの話にしっかり答えられないことで、つまらない男だと思われてしまうことを恐れていると告白してしまった。あっちゃんはこういった。

「ずいぶん、なめられたものね。」

それから、僕たちは無言のまま、眠りについた。

次の朝も目が覚めると、とてもいい天気だった。僕はあんまりいい気分ではなかったが彩豊かな朝食に感激して、そんな気分は吹っ飛んでいた。そしていい気分で宿を後にした。あっちゃんは遠目に見える旅館の姿をいつまでも見つめていた。そして、

「ありがとう。感謝してる」

と嬉しそうに僕に行った。僕は嬉しかった。そして僕はあたたかいコーヒーが飲みたくなった。カフェを探して車を走らせていると、湧き水の汲み場を発見した。僕は特に関心がなかったので素通りしたが、あっちゃんはとても興味があったようで、湧き水を汲みたいと言っていた。僕は車を反転させ、湧き水場まで戻った。

しかし、湧き水を汲む容器を持っていないことに気が付いた。あっちゃんは水筒をもっていたが、それを開けてまで湧き水を汲むことはしなかった。諦めたことを僕に告げて、ありがとうと言ってくれた。

それから、阿智村を二人で少し散策して、お土産をかったり、お昼におそばを食べたりして、帰路についた。

その後も年末年始は僕の家で二人でゆっくり過ごした。年が明けて、二人で初詣にも行った。近くの神社は大混雑していたが、隣の有料参拝の寺院は比較的空いていたため、そちらに参拝することにした。穏やかで平穏な時間だった。こんな時間がずっと続けばいいと思った。

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そして1月2日、僕たちは何もせず、ゆっくりと時間を過ごした。そして夕方過ぎに買い出しに出かけ、帰ってきた。その前からあっちゃんはなにか不機嫌た様子だった。そして、僕は何か気に入らないことがあるのか?と聞いてみた。

するとあっちゃんは、テレビボードに飾ってあるテディベアは誰からもらったのか?と聞いてきた。それは元カノのお母さんの趣味がテディベア作りで誕生日プレゼントに貰ったもので、なんとなく捨てられなくてずっと無意識に置きっぱなしにしていたものだった。僕はなんとなく「友達」と噓をついてしまった。あっちゃんには元カノと僕の家で過ごしていた事実を伝えていなかったからだ。そして、自分の中にある罪悪感に負けて正直な答えを言えなかったが、すぐに訂正した。

「実はちゃんと伝えておかなければいけないことがあるんだ」

僕はそう言ってあっちゃんにすべて包み隠さずに話した。しかし、あっちゃんには僕の「いいわけ」はどうでもよかった。一瞬でも僕があっちゃんに対して「嘘」をついたことに絶望感を感じたと言った。

そして、あっちゃんは今までに見せたことのない、冷たい視線をしたまま、僕とは一切目を合わせずに帰り支度を始めた。僕は止めることができなかった。あっちゃんが車に乗り込む前に引き留めようとして手を握ったが、振りほどかれてしまった。その感触は今でもくっきり覚えているほど、冷たいものだった。いつもなら、見えなくなるまでハザードを焚いて別れを惜しんでくれるのだが、それもなく、あっさりと返ってしまった。僕は一人、悲しみに打ちひしがれながら、明日、一人でスキー場に行くことに決めた。ただただ、支度をして、早起きに備えて眠りについた。あっちゃんのコートが寝室にかかったままだった。

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次の日の朝、僕はスキー場に向けて車を走らせた。モヤモヤした気持ちが収まらなかった。スキー場につくと、スキー仲間がいて合流した。僕は昨日の出来事は胸にしまってスキーを楽しむことに集中したが、どうしても心の底からは楽しめなかった。昼前、トイレ休憩でスマホを見るとあっちゃんからラインが入っていた。

内容は僕の家にコートを取りに来たが、いなかったので引き返したという内容だった。また取りに来ると書いてあった。しかし、僕はもう取りに来ることはないのではないかと胸騒ぎがして、すぐにあっちゃんにラインを返した。すぐに会いに行きたい、今からいってもいいか?という内容だったと思う。しかし返信はなかった。僕はいてもたってもいられず、スキー仲間達に先に帰る旨を伝え、下山した。そしてあっちゃんの家に向けて車を走らせた。

20分ほど走らせたところであっちゃんから返信がきた。今は家に居ず、姉の家にいるという内容だった。そしてあっちゃんからこんな内容の文章が送られてきた。

「いままで本当にありがとう。とても幸せだった。私の今の気持ち」

僕は焦った。一方的すぎると思った。だから、必死に引き留めた。しかしあっちゃんはありがとうの一点張りだった。そして、僕の中で何かのスイッチがぷつっと切れる音がした。正直、僕の精神はとても疲れていた。擦りあわない会話や、コロコロ変わるあっちゃんの気分、しあわせのはずなのに全然しあわせな気持ちではなかった。

そして僕は勇気を出してこういった。

「今までありがとう!ばいばい!」

そして、その勢いのまま、あっちゃんの連絡先をすべて消した。ラインのともだちも削除した。これでもう一人だ!もう終わったんだ!

僕は大泣きするかと思ったが、意外と涙は出なかった。そして少し肩の荷が下りた気がした。なんだかよくわからない状態で僕は家路についた。

第2話に続く